住宅侵入の多さと、侵入されやすさは同じではない
住宅侵入を比較するとき、最初に目に入りやすいのは認知された事件の件数である。しかし、人口や世帯が多い地域では、個々の住宅の危険性が同じでも事件の総数は大きくなりやすい。したがって、「事件が多い地域」と「一世帯あたりの侵入率が高い地域」を区別しなければならない。
住宅侵入率を考える際の基本形は、一定期間の住宅侵入件数を、同じ期間・同じ地域の世帯数で割る方法である。ここで重要になるのが分母だ。今回確認できた住宅・土地統計調査には、各大都市圏の主世帯数が示されている。
| 大都市圏 | 主世帯数 | 時期 |
| 関東大都市圏 | 17,991,100世帯 | 2023年10月 |
| 近畿大都市圏 | 8,750,400世帯 | 2023年10月 |
| 中京大都市圏 | 3,872,200世帯 | 2023年10月 |
| 北九州・福岡大都市圏 | 2,511,300世帯 | 2023年10月 |
この分母を見ると、関東大都市圏と北九州・福岡大都市圏では、住宅侵入の機会となり得る世帯の規模が大きく異なることが分かる。仮に関東大都市圏の侵入件数が多くても、それだけで各世帯が侵入を受ける可能性も高いとは結論づけられない。反対に、事件の総数が少ない地域でも、世帯数に対する比率を計算すれば別の姿が見える可能性がある。
今回の資料だけでは「最も安全な家」は決められない
注意したいのは、提示された数値が主世帯数であり、住宅侵入件数ではない点だ。分母は確認できるが、同じ地域区分と期間に対応する分子が示されていない。そのため、今回の資料だけから大都市圏別の住宅侵入率を算出したり、順位を付けたりすることはできない。
また、主世帯数は世帯の規模を示す指標であり、そのまま建物数、玄関数、戸建て住宅数を意味するものではない。集合住宅に複数の世帯が入る場合もあるため、「一世帯あたりの率」と「一棟あたりの率」は異なる指標になる。どの住宅が侵入されにくいかを知りたい場合は、比較単位を最初に決める必要がある。
ここを曖昧にすると、世帯規模の大きい地域ほど危険に見えたり、集合住宅の多い地域と戸建て住宅の多い地域を同じ条件で比べたりすることになる。住宅選びに役立つ分析にするには、総件数ではなく、何を分母にした率なのかを明記することが欠かせない。
「家の種類」と「地域」を分けて考える
「侵入されにくい家」という問いには、少なくとも地域の状況と住宅そのものの条件が含まれる。大都市圏別の主世帯数は地域規模を補正するために使えるが、住宅の建て方、所有関係、建築時期などの違いまでは説明しない。
たとえば、ある大都市圏の住宅侵入率が低かったとしても、その結果を圏内のすべての住宅に当てはめることはできない。同じ地域内でも、住宅の形態や管理条件が異なれば、侵入口の数、周囲からの見通し、共用部分の有無なども変わるからだ。反対に、特定の住宅形態で侵入件数が多く見えても、その形態の住宅や世帯自体が多いなら、率を計算する前に危険性を断定してはならない。
より有用な分析では、住宅侵入件数と主世帯数の地域区分をそろえたうえで、住宅の建て方などの区分でも分子と分母を対応させる必要がある。「大都市圏全体の率」と「住宅形態別の率」は、分母の取り方が異なる以上、別の問いへの答えにあたる。実際、住宅・土地統計調査には、住宅の所有の関係や住宅の建て方といった区分ごとに住宅数・主世帯数を集計した表が用意されている。
読者が住宅侵入率を見るときの確認点
住宅侵入に関するランキングや地図を見る際は、まず分子が何を数えているかを確認したい。住宅への侵入だけなのか、未遂を含むのか、住宅以外への侵入も混ざっているのかによって意味は変わる。
次に、分母が人口、世帯、住宅、建物のどれなのかを見る。家の被害可能性を考える目的なら、人口だけを分母にした率よりも、世帯数や住宅数を用いた率のほうが問いに近い。ただし、世帯と住宅も同じ概念ではないため、指標名を確認する必要がある。
さらに、分子と分母の時期が一致していることも重要だ。今回の主世帯数は2023年10月時点の値である。これを別の時期の侵入件数と機械的に組み合わせれば、世帯構成の変化が結果に入り込む。地域区分についても、大都市圏、行政区域、警察の集計区域が一致しているかを確かめなければならない。
現段階で言える結論
今回の資料で確認できるのは、2023年10月時点の主世帯数が関東大都市圏で17,991,100世帯、近畿大都市圏で8,750,400世帯、中京大都市圏で3,872,200世帯、北九州・福岡大都市圏で2,511,300世帯と、比較対象となる大都市圏の間で規模が大きく異なるという事実である。分母がこれだけ違う以上、住宅侵入の総件数だけを並べても、各世帯の侵入されやすさは判断できない。
「侵入されにくい家」を探すために必要なのは、件数の少ない地域をそのまま選ぶことではない。同じ期間、同じ地域区分、同じ住宅区分でそろえた侵入件数と分母を使い、住宅侵入率として比較することである。分子が確認できない段階では、率を推定せず、「まだ比較できない」と明示することが、最も誤解の少ない安全情報となる。
出典
- 住宅・土地統計調査(総務省)「都市圏別の主世帯数」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0004025704